ボロボロにしたいPB。

ペーパーバックってのは、そもそも店頭に並んでいる時点でボロボロになっているわけだが、それゆえに、買った後でも、気軽に乱暴に扱うことへの抵抗がなく、気がついたらもっとボロボロになってしまって、それがまた良い味になっていたりする。丸めてコートのポケットにいれて持ち歩き、たとえばファーストキッチンのピザ待ちなどのわずかな時間でもパッと取り出して、数ページないしは数行に目を通し、今度は無造作に鞄に押し込む。鞄のなかで折れようが、汚れようがぜんぜん平気だし、むしろ汚すことにかけては、単行本を読むときよりはずいぶん余計に、折ったり、貼ったり、線引いたりすることも多い。気がつけば、染みも想いも含めて、自分仕様にカスタマイズされた物体になっている。
こういった「愛着」は、もちろん文庫や新書でも可能だが、お気づきのように彼ら彼女たちは、服着て帯つけて、と装飾が華美にすぎるし、いささか重いし硬い。やっぱ“パルプ”っぽくなきゃだめだし、カバーなんて最初からないほうがよい…。

といったことは、あくまで理想で、実態としては、そこまで愛着のもてるペーパーバックがあるかということになると、基本的には日本にはそもそもそんなカテゴリーがなかったし、ごく最近、光文社が始めだしたものについても、試みとしては面白いしコンテンツについてもうまくやっているようだがインサイドウォッチ(ダークサイドウォッチ?)にすぎるきらいがあり「愛着」には程遠い。

毎度、前置きが長くて、たぶん本論はしょぼくて、申し訳ないけれど、ようは「愛着」のもてるペーパーバック、つまり、よれよれになるまで何度も読み返したくなるようなペーパーバックを見つけたというわけです。

"WHho's the owner of the corporation?"

ご安心ください。日本の本です。洋泉社ペーパーバックス『会社は株主のものではない』。少しタイミングを逸したかもしれないけれど、忘れないように書いておくべき良い本で、私の場合は、先に記した理想的な読み方をした結果、けっこう味わい深くカスタマイズされてきている。

一部の人たちの間ではモノのように扱われてしまっている、会社という、じつはモノであるわけなんてないこの共同幻想の未来について、「会社」とか「組織」を語らせたら必ず付箋を貼りたくなるような箴言を残す人たち8人が、集大成的にダイジェスト的に「会社」への思いを説いている談話集だ。

岩井克人●奥村宏●小林慶一郎●紺野登●平川克美成毛眞●木村雅雄●ビル・トッテン

それぞれの著作を読んでいる人にとっては、言ってみれば総まとめの話にはなっているのだが、こうやってまとまったものを読むと、ほんとうに元気がでてくる。総体としては「価値観と選択肢の多様性」を認めるための思考と技術をさまざまな立場と角度から提出しているわけだが、じつは食わず嫌いだった、木村のおっちゃんも、かなり素晴らしい社会的アイデアを提出していて、これは食わなかったことをお詫びしないといけないと反省しきりである。GEの「イマジネーション・アット・ワーク(現場での想像力)」への変革を教えてくれた紺野登にも、ふたたび感謝しなければならない。

とりわけ、というか、このペーパーバックを買った理由でもある、『反戦略的ビジネスのすすめ』の平川さんの話は、BLOG同様きっぷが良く、あいかわらず私にフォースを与えてくれるが、「ダウンサイジングの見本を日本が示していくべき」、「会社を100年もたせるというスパンで考えてみよ」といったこれもまた(私にとっての)慧眼が披露されており、一度はこの人もとで働いてみたいと、深く思ってしまう。やっぱ、商売の基本は、商品を媒介にした顧客との関係深化、ってのを忘れちゃいけないなあ。

というわけで、近頃では、ipodの次に元気がでたモノでした。いつもポケットに入れておくには少し大きすぎるんですけどね。依然として忙中なので、さえない本論あしからず。