平野啓一郎

そろそろ、『決壊』について、まとまった意見を書いておきたいなあ、とずっと考えている。リアリティのある小説という言い方ではなく、「小説のリアリティ」といったものをどう捉えるか、といったところを芯に進めることになるか。正確にはアクチュアル(アクチュアリティ)ということなのかもしれないが、 どうも「リアリティ」といいたい。もちろん、誰かがなんの下調べもなしに、そんなものもうないんじゃないかとのたまったトポスも重要になってくるだろうし(もちろん同じくらいに「移動」も)、たぶんにドストを意識しているであろう事大なボリフォニーもポイントになる。
進行中の現在は、いろいろなことがそれこそズタズタになっており、読み手としては、この状況に手を差し伸べる福音を期待するが、実際は、きっと、救いのない終焉を迎えると思われる。それが、現代だ、という結論に落とすのか落とさないのか。やはり、完結するまで待ったほうがよいか。いずれにしても、まあ凄い小説ではある。