Go!Go!コンビニライフ


ローソンなら「炙りチャーシュー丼」、「かに玉の黒酢あん」に「牛丼」。セブンならみち子の空弁「焼きさば寿司」。なによりワン&オンリーな「富しげ こだわりの柿ピー*1」。am/pmなら「とれたてキッチンおこめサンド」で最近気になるのは今日から発売の「銀座天國監修 大海老菜盛天重」、サンクスならいまは影を潜めた「豆パン」ほかシュガートーストなどの「ベーカリールネッサンス」に「銀座梅林カツサンド」。加えてコンビニ限定*2ヘルシア緑茶&烏龍茶350mlボトル」常用……


わりと忙しい職場で、単身赴任のような生活をしているため、はっきりいってコンビニ漬け。だからといって辟易しているか?というと、そんなこともなくフリークでもある。先にあげた商品なんてじつはかなりのお気に入りだったりする。平均して日に2回ほど行く店内では、メンタルなビジネス・アフェアが浄化されたりするんじゃないかとも感じている。この歳になって情けない限りだけれど。


もちろんコンビニの中食は風評的には、身体にいいものなんてひとつもないと言われているわけだが*3、それでも、「野菜が採りたいのならコンビニでたんまりサラダ買えばいいじゃん」とか「外食より栄養バランスがとりやすい」などといいふらして、自己暗示にかけようとしているわけだ。


大阪の自宅に帰れば、ほんの近所に関西で2店目となる赤ローソン*4もオープンしたため、自己正当化にも拍車がかかる。「おい娘!むしろコンビニエンスストアナチュラルのほうが進化しているのだよ。」とかなんとか。


しかし、こういった言動は強がりの虚勢なわけで、コンビニを常用しているという行動原則は、なんというか、そこはかとなく、誰にともなく後ろめたさが感じられてしまうのもまた事実ではある。依然として「コンビニ」といえば、極彩色のB級ヒールではある。


しかし、ようやく、その気まずさを払拭できるときがやってきた。あの天下の朝日新聞が発行する、『AERA』なる雑誌が、メインストリームとしてのコンビニを特集する増刊号を臨時に緊急発売したのだ。あの30代知的ビジネスウーマンに人気の高い『AERA』だ。題して『Go!Go!コンビニライフ』。一冊丸ごとコンビニライフ特集まるごと152ページ。よくぞやってくれた!もうこれからはコソコソ隠れてコンビニに行く必要もなくなるし、「毎晩、コンビニ弁当ですよ」と自嘲しなくてもよくなるし、胸をはってジャンクな香りいっぱいのカウンターフーズを買い食いできる!………って……書いててだんだん虚しくなってきたわ。こんなこと書いても、なんの意味もなんの価値もない。べつに『AERA』が取り上げたからといってとりたてて騒ぐことなんてまったくもってない。だいたい、ほとんど広告特集じゃねえか。そもそも、いまさらなんだよなあ。


と、いっても、そこは流石に『AERA』。あまたあるコンビニエンタメ雑誌とは、少しは異なる切り口で迫っている。ふんだんなテキスト量は読み物としてのコストパフォーマンスも高いし、エディトリアル(デザイン含む)も巧い。
メイン記事は『コンビニとわたし』で、「お題としてのコンビニ商材 →じつは隠れコンビニファン著名人の語りエッセイ →当該商材にのぞむ各社の心意気」で構成されているもの。たとえば「おにぎり →鳥越俊太郎 →セブン」、「麺 →ソニン →am/pm」、「お酒 →寺島しのぶ →アサヒビール(極、ワイン)」、「サンドイッチ →イッセー尾形 →セブン」、「カウンターフーズ →舞の海 →ファミリーマート」ってな感じ。そのほか間をぬって鈴木敏文はじめ各社『トップに聞く』、“着色料などの添加物がたっぷりなのでは?”とをはじめとした辛辣な『コンビニへの8つの疑問』、お笑い芸人による『30日間コンビニ食本当に生きていけるか』、仕入部隊の仕事をみる『こだわりの現場』などなど、総合コンビニエンターテイメント雑誌となっている。


吉本隆明茂木健一郎の語り『私はコンビニをこう考える』なども愉しい。前者は吉本家のキッチンの歴史をユーモアをまじえながらひもときつつ、現在歩行が不自由になっている吉本が「300メートルほどのところにあるコンビニにたどりつけ」るようになったら、現在は食事制限もあるんだけど「キャラメルとか甘いお菓子を買って食べたい。もちろん家内には内緒で。それにうちのネコさんにはポテトチップを買ってあげたい。僕用のカロリー控えめの味のないクラッカーには見向きもしなくなっちゃたものでね」と、コンビニの愉しみを彼の不屈の精神をトレースしながらやわらかに語っている。茂木は、「セレンディピティ(偶然の発見)」、流通界のグーグル、消費行動の認知的不協和などの考えを提起しながらコンビニの現在をうまく定義している。


こうしてみると、コンビニには重層的な物語が発生しているようで、カルチュラル・スタディーズの対象としても輝いているわけではある。うそ。そこは、やはり企業のフォーマットというかマニュアルに則っているわけで、じつはあまり文化的な発展性がない。もっとも、『AERA』で紹介されているような「おもしろコンビニ」、アジアのコンビニ、根室のコンビニなど、亜種というか突然変異がでてくるとか、「書原」とか「ヴィレッジ・バンガード」みたいにあたかもフランチャイジーの(店主の)裁量が活かされているかのように見える店なんかがでてきて、そのことを売り物にしているチェーンなんかがでてくると面白い。高度なチェーンオペレーションがバックヤードで流れている駄菓子屋ってところか。いや面白くないか。まあいいや。


物語の場という側面としては、たとえば『アフターダーク』での携帯放置シーンや龍の『空港にて』*5『ストレンジ・デイズ』などの小道具としてのコンビニを並べてみるってのも面白いかもしれない。そこに『四十日と四十夜のメルヘン』のスーパーマーケットとか、阿部和重『新宿ヨドバシカメラ』なんかも対置したりして。面白くないか。まあいいや。


この巨大で、ある意味露悪的なB級ガジェットが、どこまでも悪趣味化することを、適当に願いつつ、本日はサンクスの新製品「親子重」。ここまでふんわり半熟っぽくできるなんて驚きだわ。味もOK!紅しょうがの使い道に困ったけど。


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↑僭越ながら「◎ブックガイド」カテゴリー
↑とさせていただきました。よって
↓本&読書のblogランキングの仲間。

*1:ご存じ、亀田やでん六なんかけし飛んでしまうナンバーワン柿ピー。ピー柿か。

*2:もちろん最近では駅売店でも入手可。しかし、依然として近所の偽コンビニ(ミニスーパー)には、卸してもらえないらしい。もうそろそろいいんじゃないか、と思うけど。

*3:AERA』によると、ほとんどのコンビニでは弁当に保存料や合成着色料を使っていないらしい。むしろそういったことに気をつかうぶんコンビニ弁当のほうが安心とも。また自己正当化のネタが増えた。

*4:言うまでもなく「ナチュラルローソン」。これまでローソンといえば、店内に在庫のダンボールが放置されていたり、いっぽうで決定的な欠品が多かったりして、まさにダイエーの遺産を正しく引き継いでいたのだが、経営が三菱商事に変わりずいぶん改善されてきた。もっとも新浪社長に交代後、すぐに店頭が変革できたわけではなかったのは、なにかに絡め取られていたからか。多くの店舗が少なくとも「きれいに」なってきたのはごく最近だ。その極にあるのが「手作りパン工房つき」の「ナチュラルローソン」であり、(店員の多さは気になるとしても、また近畿の当該店に限って言えば)ある程度のホスピタリティは達成できている。高い集客力も維持できている。ただし、このモデルが関西でうまくいくかどうかは、同店(もう言ってしまいますが服部緑地店)の成功により判断できるものではない。なぜなら、服部緑地店はあらかじめ成功が約束されている立地であるという出来レースだからだ。分譲マンションが林立し続けているにもかかわらずナショナルなコンビニ不在。いわゆるスーパーは徒歩でいくにはほど遠い距離。近所に小学校・中学校・服部緑地。これ以上の場所はないのではないか、というくらいの好立地である(ディベロップと交渉には敬意を表す。ただしここを選んだのは、じつはローソンの第一号店が豊中市だった、というウエットな理由かもしれない)。近々、近くに別のコンビニが出店するらしいがもしこれが「ファミマ!」とかであれば、面白いんだけどなあ。「ファミマ!」のコンセプトなら住宅街という立地は厳しいんだけど、あのあたりがコンビニのテストマーケットゾーンになればフリークとしてはこのうえのない喜びであはある。

*5:『どこにでもある場所とどこにもいない私』改題。たぶん改悪。